辨 |
シバ属 Zoysia(結縷草 jiélǚcăo 屬)には、アジアの熱帯乃至温帯に8-11種がある。
シバ Z. japonica (結縷草)
オニシバ Z. macrostachya(大穗結縷草)
コウシュンシバ Z. matrella (溝葉結縷草)
コウライシバ Z. pacifica(Z.matrella subsp.tenuifolia, Z.matrella
var.tenuifolia, Z.Matrella var.pacifica;細葉結縷草)
ナガミノオニシバ Z. sinica
ナガミノオニシバ var. nipponica(長花結縷草)
コオニシバ var. sinica (Z.sinica var.macrantha, Z.liukiuensis;
中華結縷草)
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植物名としてのシバは、
1. 広義には、イネ科シバ属 Zoysia の多年草の総称。
2. 狭義には、シバ Zoysia japonica。 |
イネ科 Poaceae(Gramineae;禾本 héběn 科)については、イネ科を見よ。 |
訓 |
和名にシバのつく植物を拾ってゆくと、シバ属に限らず、広くイネ科の、道端に生える強い雑草をいうことが多い。例えば、オヒシバ・メヒシバ・ミチシバ・チカラシバ・ギョウギシバ・イヌシバなど。
しばは、「繁葉草(シバハグサ)ノ意カ、芝ノ字ハ瑞草ノ名ニテ當ラズ」(『言海』)。
「和名 しばハ細葉ノ義ト謂フ、又繁葉(しばは)ノ意トモ謂ハル」(『牧野日本植物圖鑑』)。その他の語源説については『日本国語大辞典 第二版』を参照。
なお、日本語のしばに三義あり。
一は ここにいうシバ。「芝」と書き慣わす。
二は、小枝を刈り取って薪・垣などにするための灌木を云う。
「柴」と書き慣わす。
三は、「荒地に生ズル藜(アカザ)、莠(ハグサ)ノ類ノ雜草ノ稱ナリト云」、
「萊草」と書く(『言海』)。なお、萊(ライ,lái)は 藜(レイ,lí)と同義。
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但し、『言海』にある通り、漢語の芝(シ,zhī)はシバではなく、マンネンタケ(靈芝,レイシ,língzhī)。 |
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『倭名類聚抄』萊草に、「和名之波」と。これは上にいう、「しば」の第三義。 |
属名 Zoysia は、オーストリアの植物学者ツォイス K. von Zoysに因む。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・琉球・朝鮮・臺灣・華東・山東・河北・遼寧・吉林・黑龍江に分布。 |
「(草原は)一方、放牧下の草地では、家畜の採食、踏みつけ(放牧圧)などにより短草型になる。この代表的なのがシバ型草地である。シバそのものは北海道南部から九州までふつうに見られるが、シバが優先種として圧倒的な優位を保つのは、東北地方を中心とした冷温帯地域である。・・・
山地帯(ブラ-ミズナラ帯)になると、西南日本でもシバ型草地が分布し、その中間にシバ-ネザサ型が存在する。中国山地にはこのような例がよく見られる。(九州・四国などの暖地では、低地でも特に海岸沿いにシバ型草地ができやすい。)
・・・
ススキ草地に過度の採草がくり返されたり、放牧による採食、踏みつけなどが加えられたりすると、冷温帯や、暖地の海岸地域では、ススキはしだいにおとろえ、代ってシバが増える。
ススキ型草地はススキ-シバ型を経てシバ型へと移行する。
これは人為作用にともなう退行遷移の一つで、早い場合には三~五年でその結果が現れる。シバは地表あるいは地表下に茎をのばし、地上部の成長点は地表近くにあって、踏みつけ圧や被食に対して強い再生力をもっている。
その反面、ススキ・トダシバなど高茎草本との競争には弱く、放牧の力が弱まれば再びススキ草地へと移行する。
さらに過度の放牧があると、群落攪乱がシバの再生力を上回り、オオバコ・スズメノカタビラなど踏みつけ型の人里植物群落になる。放牧地の馬立て場には、このような群落ができている。」
(沼田・岩瀬『図説 日本の植生』1975) |
誌 |
『万葉集』に、
立ち易はり 古き京(みやこ)と 成りぬれば 道の志婆草 長く生ひにけり
(6/1048,読人知らず。寧楽の故りにし郷を悲しびて作る歌)
畳薦(たたみこも) 隔て編む数 通はさば 道の柴草 生ひざらましを
(11/2777,読人知らず)
歌意からすれば、ここに詠われるしばくさは、ほとんど雑草と同意のようだ。
(上に記した「しば」の第三義であろう、シバではあるまい)。
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枯芝ややゝかげろふの一二寸 (芭蕉,1644-1694)
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